バックアップ回線とは?必要性・種類・選び方・導入の注意点まで徹底解説
目次
企業活動のあらゆる場面でインターネット通信が不可欠となった現在、通信回線が途切れることは業務の完全停止を意味します。災害や通信障害によってメイン回線が使えなくなった際に業務を継続するための備えとして、バックアップ回線の重要性が年々高まっています。
しかし、「バックアップ回線にはどのような種類があるのか」「自社にはどのような構成が最適なのか」といった具体的な知識を持っている企業はまだ多くありません。
本記事では、バックアップ回線の基本的な考え方から、必要性が高まっている背景、バックアップ回線の種類と特徴、回線冗長化の構成パターン、選定時のポイント、導入時の注意点まで幅広く解説します。BCP対策やネットワークの安定稼働にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
バックアップ回線とは?基本的な考え方を解説
バックアップ回線とは、通常利用しているメインのインターネット回線や拠点間通信回線に加えて、災害や通信障害が発生した際に通信を途切れさせないために別系統で用意しておく予備の回線のことです。
メイン回線に障害が発生した場合にバックアップ回線へ自動または手動で切り替えることで、通信の断絶を回避し、業務を継続できる仕組みを構築します。このようにメイン回線とバックアップ回線を併用して通信経路を二重化することを「回線の冗長化」と呼び、企業のBCP(事業継続計画)対策における重要な施策として位置づけられています。
バックアップ回線の導入は、大企業だけでなく中小企業にとっても業務の安定性を確保するために不可欠な対策となりつつあります。通信回線が止まることは、現代の企業にとってオフィスの電気が止まることと同等以上のインパクトがあると認識すべきでしょう。
なぜバックアップ回線が必要なのか?3つの理由
バックアップ回線の必要性は、近年の通信障害の頻発や自然災害の激甚化を背景にますます高まっています。ここでは、企業がバックアップ回線を導入すべき3つの主な理由を、実際の事例を交えながら解説します。
災害時の通信途絶リスクに備えるため
地震や台風、豪雨などの大規模災害が発生すると、基地局の倒壊や通信ケーブルの断線、停電などにより通信インフラが広範囲にわたって被害を受ける可能性があります。通信が途絶すると、従業員の安否確認や取引先との連絡、顧客へのサービス提供など、企業活動のほぼすべてが停止してしまいます。
バックアップ回線を事前に用意しておけば、メイン回線が使えなくなっても別系統の回線で通信を維持でき、災害時の業務継続が可能になります。東日本大震災や能登半島地震でも、バックアップ回線を整備していた企業は迅速な事業継続を実現したことが報告されています。
災害大国である日本において、バックアップ回線の整備は企業規模を問わず取り組むべき優先度の高い課題です。
通信障害による業務停止を防ぐため
災害が発生していなくても、通信事業者側の障害によりインターネット回線が長時間利用できなくなるケースは珍しくありません。2023年にはNTT東日本・西日本で16都道府県にわたる大規模障害が発生し、約44.6万回線に影響が出ました。
このような通信障害は予測が困難であり、単一の回線に依存していると障害発生時に業務が完全にストップするリスクがあります。バックアップ回線を導入してメイン回線とは異なるキャリアの回線を確保しておけば、一方の事業者で障害が発生してももう一方の回線で業務を継続できます。
通信障害は予告なく発生するため、バックアップ回線は「いつか」ではなく「今日にでも」必要になる可能性があるという意識を持つことが大切です。
DX推進に伴い通信への依存度が高まっているため
近年はクラウドサービスやSaaS、Web会議ツール、IoT機器の普及により、企業の業務はかつてないほど通信回線に依存するようになっています。POSレジや在庫管理システム、受発注システムなど、インターネット接続が前提の業務システムを利用している企業にとって、通信の断絶は直ちに売上の損失や顧客対応の遅延につながります。
DX化が進むほどバックアップ回線の重要性は増しており、ネットワークの冗長化はもはやIT部門だけの課題ではなく、経営レベルで取り組むべきリスクマネジメントのひとつです。自治体においても住民サービスのオンライン化が進んでおり、バックアップ回線の整備は民間企業に限らず公共機関にとっても喫緊の課題となっています。
バックアップ回線の主な種類と特徴を比較
バックアップ回線にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。メイン回線と同じ種類の回線をバックアップに使うと、同じ障害で同時に使えなくなるリスクがあるため、異なる種類の回線を組み合わせるのが基本的な考え方です。
ここでは、バックアップ回線として活用される代表的な回線の種類と特徴を紹介します。それぞれのコストや導入難易度も合わせて把握しておくと、自社に合ったバックアップ回線を選定しやすくなります。
モバイル回線(4G/5G)
モバイル回線は、バックアップ回線として最も広く利用されている種類のひとつです。SIMカードを挿入したモバイルルーターを設置するだけで導入でき、初期費用を比較的安く抑えられるのが大きなメリットです。光回線のような物理的なケーブルを使用しないため、ケーブルの断線による障害の影響を受けにくいという利点もあります。
ただし、災害時には基地局の被災や通信の輻輳によりモバイル回線自体が使えなくなる可能性もあるため、バックアップ回線としての万全性には限界がある点を理解しておく必要があります。月額数千円程度のコストで導入できるため、中小企業のバックアップ回線としても導入しやすい選択肢です。
複数キャリアのSIMに対応したマルチキャリアルーターを活用すれば、特定のキャリアに障害が発生しても自動で別のキャリアに切り替わるため、バックアップ回線としての信頼性がさらに向上します。
別キャリアの光回線
メイン回線とは異なる通信事業者の光回線をバックアップ回線として導入する方法は、「キャリア・ダイバーシティ」と呼ばれ、高い信頼性を確保できる構成です。一方のキャリアで障害が発生しても、他方のキャリアの回線が生きていれば通信を維持できます。
帯域が安定しているため、メイン回線と同等の通信品質を確保できるのもメリットです。ただし、同じ地域で物理的なケーブルが同じ経路を通っている場合は、災害時に両方の回線が同時に断線するリスクもあるため、経路の分離にも配慮が必要です。
バックアップ回線としてのコストはモバイル回線よりも高くなりますが、高い通信品質と安定性が求められる企業には最適な選択肢といえるでしょう。金融機関や医療機関、ECサイト運営企業など、通信の安定性がビジネスの生命線となる業種では、別キャリアの光回線によるバックアップ回線の構成が広く採用されています。
衛星回線
衛星回線は、通信衛星を経由して通信を行うため、地上の通信インフラに一切依存しないバックアップ回線です。基地局の被災やケーブルの断線といった地上の被害の影響を受けないため、大規模災害時における最終的な通信手段として非常に高い信頼性を誇ります。
近年ではStarlinkに代表される低軌道衛星通信サービスの普及により、高速で低遅延な衛星インターネットが利用可能になっています。能登半島地震では避難所や医療現場で衛星回線が活躍し、バックアップ回線としての有効性が実証されました。
導入コストや月額費用は他のバックアップ回線に比べて高額になりますが、災害リスクの高い地域や重要インフラを運用する企業にとっては、検討する価値が十分にあります。バックアップ回線としての衛星回線は、今後さらに低コスト化と高速化が進むことが見込まれており、将来的にはより多くの企業にとって現実的な選択肢になるでしょう。
バックアップ回線を選ぶ際の4つのポイント
バックアップ回線の導入を検討する際は、以下の4つのポイントを押さえておくことで、自社に最適な構成を選定できます。
メイン回線と異なる通信経路を選ぶ
バックアップ回線を選ぶ際の最も重要なポイントは、メイン回線とは物理的にも論理的にも異なる通信経路を選ぶことです。同じキャリアの同じ経路を使う回線をバックアップにしても、同時に障害を受けるリスクがあり、冗長化の効果が薄れてしまいます。
メイン回線が光回線であればバックアップ回線にはモバイル回線や衛星回線を選ぶなど、通信方式そのものを変えることで、バックアップ回線の信頼性を高めることができます。有線と無線、地上回線と衛星回線のように、異なる通信インフラを組み合わせることがバックアップ回線の冗長性を最大化する鍵です。
業務に必要な帯域を確保する
バックアップ回線は「最低限使えればよい」と考えがちですが、非常時にこそ十分な帯域が求められます。Web会議による安否確認やサプライチェーンの状況把握、顧客への情報発信など、災害時には通常以上に多くの通信が必要になるケースもあります。
バックアップ回線の帯域が不十分だと、切り替え後に輻輳が発生して結局業務が滞るという事態になりかねません。バックアップ回線であっても一定の帯域を確保できる「帯域保証型」のサービスを選ぶことが望ましいでしょう。
自動切替の仕組みを導入する
メイン回線の障害発生時にバックアップ回線への切り替えが手動でしかできない場合、担当者が不在のときや深夜・休日に障害が発生した際に対応が遅れるリスクがあります。
ルーターのフェイルオーバー機能を活用すれば、メイン回線の異常を自動的に検知してバックアップ回線に切り替えることが可能です。自動切替の仕組みを導入しておくことで、バックアップ回線の即応性が格段に向上し、通信断絶の時間を最小限に抑えることができます。
定期的な動作確認と監視を行う
バックアップ回線は、普段使用しないために障害に気づきにくいという落とし穴があります。いざメイン回線がダウンした際にバックアップ回線も使えなかったというケースを防ぐためには、定期的な動作確認と回線の監視が不可欠です。
ネットワーク監視ツールを活用してバックアップ回線の健全性を常時チェックし、異常を検知した場合は速やかに対処できる体制を整えておきましょう。バックアップ回線の信頼性を維持するためには、導入後の運用管理が極めて重要です。
バックアップ回線の導入で注意すべきポイント
バックアップ回線を導入する際には、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。まず、バックアップ回線の導入コストと運用コストを事前に試算し、予算に見合った構成を選ぶことが大切です。高性能なバックアップ回線ほどコストは高くなりますが、通信障害による業務停止がもたらす損失と比較して判断する視点が求められます。
次に、バックアップ回線への切り替え手順を社内で文書化し、関係者に共有しておくことも重要です。手順が明確でないと、非常時に混乱が生じ、バックアップ回線があっても迅速に活用できないおそれがあります。
さらに、バックアップ回線の導入後は定期的に切り替え訓練を実施し、実際に問題なく通信できることを確認しておきましょう。訓練を通じて課題を洗い出し、継続的に改善することが、バックアップ回線の実効性を高める鍵となります。
実際に切り替え訓練を行うと、手順書には記載されていない運用上の課題が見つかることも多いため、少なくとも年に1回は訓練を実施することが推奨されます。
まとめ
バックアップ回線は、災害や通信障害から企業の業務を守るために不可欠なインフラです。メイン回線と異なる通信経路のバックアップ回線を導入して回線を冗長化することで、通信の断絶リスクを大幅に低減し、BCP対策の実効性を高めることができます。
バックアップ回線の種類にはモバイル回線、別キャリアの光回線、衛星回線などがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。選定の際はメイン回線との経路分離、必要な帯域の確保、自動切替の仕組み、定期的な監視体制の構築がポイントとなります。
DX化が進み通信への依存度が高まる現在、バックアップ回線の導入はすべての企業が検討すべき重要な経営課題です。まだバックアップ回線を整備していない企業は、本記事を参考に、自社のネットワーク環境を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
バックアップ回線への投資は、万が一の事態が発生したときに企業の存続そのものを左右する、最も費用対効果の高いリスク対策のひとつです。