ネットワーク冗長化とは?メリット・構成パターン・レイヤー別手法・導入の注意点を徹底解説
目次
企業のIT化やクラウドサービスの普及が進む中、ネットワーク障害による業務停止は経営に深刻なダメージを与えるリスクとなっています。こうしたリスクを最小限に抑えるための対策として、ネットワーク冗長化の重要性がこれまで以上に高まっています。ネットワーク冗長化とは、通信回線やネットワーク機器に障害が発生した場合に備えて、予備の設備や回線を事前に用意しておくことです。
しかし、「ネットワーク冗長化の具体的な方法が分からない」「どこまで冗長化すればいいのか判断できない」と悩む企業担当者は少なくありません。本記事では、ネットワーク冗長化の基本概念から、冗長化がもたらすメリット、具体的な冗長構成の種類、レイヤー別の冗長化手法、導入時の注意点まで網羅的に解説します。ぜひ最後までお読みいただき、自社のネットワーク冗長化対策にお役立てください。
ネットワーク冗長化とは?基本概念を分かりやすく解説
ネットワーク冗長化とは、通信障害が発生した場合に備えて、予備のルーターや通信回線、ネットワーク機器などを準備しておくことを指します。メインのネットワーク経路に障害が発生しても、あらかじめ用意したバックアップ経路に切り替えることで通信を継続でき、業務への影響を最小限に抑えることが可能です。
ネットワーク冗長化は「回線の二重化」や「機器の多重化」とも呼ばれ、企業のBCP(事業継続計画)を実現するための核となる施策として位置づけられています。近年は自然災害の激甚化や通信事業者の大規模障害が相次いでいることから、ネットワーク冗長化に取り組む企業が急速に増加しています。
ネットワーク冗長化は大企業だけのものではなく、中小企業にとっても事業の安定運営に不可欠な対策です。2023年にはNTT東日本・西日本で16都道府県にわたる大規模な通信障害が発生し、約44.6万回線が影響を受けました。このような通信障害は業種や企業規模を問わず影響を及ぼすため、ネットワーク冗長化はすべての企業にとって検討すべき重要な経営課題となっています。
ネットワーク冗長化の4つのメリット
ネットワーク冗長化を導入することで、企業は多くのメリットを享受できます。ここでは代表的な4つのメリットを解説します。
障害発生時の業務停止を防止できる
ネットワーク冗長化の最大のメリットは、障害発生時に業務を停止させずに済むことです。メインのネットワーク経路に問題が生じても、バックアップ経路に切り替えることで通信を継続でき、メールやWeb会議、クラウドサービスなどの業務インフラを使い続けることができます。
数分の通信障害でも大きな損失につながるオンラインサービスや決済システムを運用している企業にとって、ネットワーク冗長化は特に重要な対策です。ネットワーク冗長化により通信の継続性を確保しておくことで、障害発生時にもシステム管理者が焦ることなく原因究明と復旧作業に専念できる環境を整えられます。
BCP対策として有効に機能する
ネットワーク冗長化は、BCP(事業継続計画)の重要な構成要素として機能します。地震や台風などの自然災害が発生した際にも、地理的に離れた場所にバックアップ設備を配置しておけば、被災地のネットワークがダウンしても遠隔地の設備で事業を継続できます。
ネットワーク冗長化によるBCP対策は、顧客や取引先からの信頼維持にも直結するため、企業の競争力を高める効果も期待できます。政府もBCPの策定を推奨しており、ネットワーク冗長化を含むBCP対策に取り組む企業への助成金制度を設けている自治体もあります。
システム負荷の分散ができる
ネットワーク冗長化は障害対策だけでなく、平常時のシステム負荷分散にも活用できます。複数の回線やサーバーに通信トラフィックを分散させることで、特定の機器やネットワーク経路に負荷が集中するのを防ぎ、システム全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
アクセスが集中するECサイトやWebサービスを運営している企業にとっては、ネットワーク冗長化が安定したサービス提供の基盤となります。DDoS攻撃のようなサイバー攻撃に対しても、ネットワーク冗長化による分散処理が有効な防御策として機能します。ネットワーク冗長化は「障害時の保険」としてだけでなく、平常時のパフォーマンス向上にも貢献する一石二鳥の投資といえます。
保守・メンテナンスの効率化につながる
ネットワーク冗長化の構成を整えておけば、機器のメンテナンスやソフトウェアのアップデートを行う際にも、業務を停止させることなく作業を進めることが可能になります。
メイン系統の機器をメンテナンスする間は予備系統で運用し、作業完了後に元に戻すという運用ができるため、計画的な保守作業が業務時間内でも実施しやすくなります。ネットワーク冗長化は、日常の運用管理においても大きなメリットをもたらすのです。
ネットワーク冗長化の2つの基本構成
ネットワーク冗長化の構成方法には、大きく分けて2つのパターンがあります。それぞれの特徴を理解して、自社のネットワーク環境に最適な構成を選びましょう。
ホットスタンバイ構成
ホットスタンバイは、メイン系統とバックアップ系統の両方を常時稼働させておき、メイン系統に障害が発生した際に自動的にバックアップ系統へ切り替えるネットワーク冗長化の構成です。切り替えが自動で行われるため、ダウンタイムを極めて短く抑えられるのが最大のメリットです。
24時間365日の安定稼働が求められるシステムや、通信断絶が許されない業務基盤には、このホットスタンバイによるネットワーク冗長化が適しています。一方で、バックアップ系統も常に電源を入れて稼働させておく必要があるため、運用コストが高くなる傾向があります。
近年はクラウドサービスを活用することで、ホットスタンバイによるネットワーク冗長化のコストを従来よりも大幅に抑えられるようになっています。
コールドスタンバイ構成
コールドスタンバイは、バックアップ用の機器や回線を用意しておきながら、通常時は電源をオフにしておくネットワーク冗長化の構成です。障害が発生した際に手動でバックアップ系統の電源を入れて切り替えるため、復旧までに時間がかかるというデメリットがあります。
ただし、ホットスタンバイに比べて運用コストを大幅に抑えられるのがメリットです。即時の切り替えが必須ではない業務システムや、コストを抑えつつもネットワーク冗長化を実現したい中小企業に適した構成といえるでしょう。
障害発生時の切り替え手順を事前にマニュアル化し、担当者に周知徹底しておくことで、コールドスタンバイでもネットワーク冗長化の効果を十分に発揮できます。
レイヤー別に見るネットワーク冗長化の具体的手法
ネットワーク冗長化は、OSI参照モデルのレイヤーごとに適切な手法を選択して実施するのが効果的です。ここでは、各レイヤーにおける代表的なネットワーク冗長化の手法を解説します。
自社のネットワーク環境に合わせて、複数のレイヤーの冗長化を組み合わせることで、より堅牢なネットワーク冗長化を実現できます。
物理層(レイヤー1)の冗長化
物理層のネットワーク冗長化は、NIC(ネットワークインターフェースカード)やLANケーブル、電源などの物理的な設備を二重化することを指します。LANケーブルを複数本用意して異なるポートに接続したり、サーバーに電源を複数搭載して異なる系統から給電したりすることで、物理的な故障によるネットワーク断絶を防止します。
最も基本的なネットワーク冗長化の手法であり、他のレイヤーの冗長化と組み合わせて実施するのが一般的です。サーバーの電源を異なる系統から供給する電源冗長化も、物理層のネットワーク冗長化において重要な取り組みのひとつです。
データリンク層(レイヤー2)の冗長化
データリンク層のネットワーク冗長化には、チーミングやリンクアグリゲーション、スパニングツリープロトコル(STP)などの技術が用いられます。チーミングは1台の機器に搭載された複数のNICを仮想的に1つの接続としてまとめる手法で、片方のNICに障害が発生してももう片方で通信を継続できます。
リンクアグリゲーションは複数の物理リンクを束ねて1つの論理リンクとして扱うことで、通信の帯域幅を拡大しつつネットワーク冗長化を実現する手法です。スパニングツリープロトコル(STP)はループ状に構成されたネットワークでデータが無限ループしないよう制御する仕組みで、冗長経路の管理に広く使用されています。
ネットワーク層(レイヤー3)の冗長化
ネットワーク層のネットワーク冗長化では、ルーターやレイヤー3スイッチを複数台設置してバックアップ構成を構築します。VRRP(仮想ルータ冗長プロトコル)などの技術を使えば、メインのルーターに障害が発生した際に自動的にバックアップルーターに切り替わる構成を実現できます。
また、インターネット回線そのものの冗長化として、異なる通信事業者の回線を複数契約するキャリア・ダイバーシティも、ネットワーク層における重要な冗長化手法のひとつです。インターネット回線の冗長化はネットワーク冗長化全体の中でも最も優先度が高く、外部との通信が完全に途絶えるリスクを回避するための最重要施策です。
ネットワーク冗長化で優先すべき対象
すべてのネットワーク機器やシステムを完全に冗長化するのは、コスト面で現実的ではない場合もあります。ネットワーク冗長化を効果的に進めるためには、優先度の高い対象から段階的に取り組むことが重要です。
最も優先すべきはインターネット回線の冗長化です。異なるキャリアの回線を2系統用意するキャリア・ダイバーシティは、ネットワーク冗長化の第一歩として多くの企業で採用されています。次に、ルーターやファイアウォール、スイッチなどのネットワーク機器の二重化を検討しましょう。
さらに、サーバーやストレージの冗長化にはクラウドサービスやRAID構成の活用が有効です。自社の業務において最も停止が許されないシステムを見極め、そこからネットワーク冗長化を進めていくのが効率的なアプローチです。
ネットワーク冗長化は一度にすべてを完璧に構築する必要はなく、段階的に範囲を拡大していくことで、コストを抑えながら着実に耐障害性を高めることができます。
ネットワーク冗長化を導入する際の注意点
ネットワーク冗長化を導入する際には、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。まず、ネットワーク冗長化にはコストがかかるという点です。機器の購入費や回線の契約費、運用管理の人件費など、冗長化の規模に比例してコストは増加します。
ただし、ネットワーク障害による業務停止がもたらす損失と比較すれば、ネットワーク冗長化への投資は「掛け捨ての保険」と同じく、万が一の事態に備えた合理的な判断といえるでしょう。
次に、ネットワーク冗長化によって構成が複雑になるため、運用管理の負荷が増加する点にも注意が必要です。予備系統の機器もメイン系統と同じ状態に維持する必要があり、OSのアップデートやデータの同期作業が定期的に発生します。
さらに、ネットワーク冗長化の構成を構築した後は、定期的に切り替えテストを実施して実際に正常に動作するかを確認することが不可欠です。構築して終わりではなく、運用と改善を継続的に行うことが、ネットワーク冗長化の実効性を維持する鍵となります。
特にバックアップ用の回線や機器は普段使用しないため異常に気づきにくいという落とし穴があり、ネットワーク監視ツールを活用した常時モニタリングの体制を整えておくことが推奨されます。
まとめ
ネットワーク冗長化は、障害発生時の業務停止防止、BCP対策、負荷分散、保守効率化など、多くのメリットをもたらす重要な施策です。構成方法にはホットスタンバイとコールドスタンバイがあり、レイヤーごとに物理層・データリンク層・ネットワーク層の冗長化手法を組み合わせることで、より堅牢なネットワーク環境を構築できます。
ネットワーク冗長化にはコストや運用管理の負荷増加といった課題もありますが、通信障害による業務停止の損失を考えれば十分に見合う投資です。まずはインターネット回線の冗長化から始めて、段階的にネットワーク機器やサーバーの冗長化へと拡大していくのが現実的なアプローチです。
ネットワーク冗長化に未着手の企業は、本記事を参考にして自社のネットワーク環境を見直し、安定した業務運営の基盤づくりに取り組みましょう。ネットワーク冗長化への投資は、万が一の障害発生時に企業の事業継続と信頼を守る、最も費用対効果の高いリスクマネジメント施策のひとつです。